2022.05.1 up

15TH ANNIVERSARY TOUR-新世界- のライヴリポート公開!

2022年4月に開催した東名阪ツアー『15TH ANNIVERSARY TOUR-新世界-』にご来場頂いた皆様、誠にありがとうございます。

発売中のオールタイム・ベストアルバム『妙齢』を中心に選曲されたライヴツアー。
4月2日、東京公演初日のライヴリポートを公開します!

15TH ANNIVERSARY TOUR-新世界- Live Report


開演の数分前から流れ始めていたドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」第4楽章の音量が高まり、会場全体が暗転。それとほぼ同時に、今夜のライヴを待ち侘びた観客たちの拍手が湧く。その拍手に迎えられながらステージへ現れた中村 中が中央のスタンドマイクの前に立つ様子が、薄暗がりを通して見えた。最初に届けられたのは「戦争を知らない僕らの戦争」。会場に満ちていた拍手の音を切り裂くようなアカペラ。物語を見せられているかのようなアコースティックギター1本での絶唱には、引き込まれずにはいられなかった。戦争はどこか遠い国でのみ行われているわけではなく、同様の構造の出来事は日常にいくらでも存在する。そんな「身近な戦争」への苦悩と疑問を映し出すのがこの曲だ。2010年にリリースされた曲だが、描かれていることの切実さは何も変わっていない。非情な現実と懸命に格闘している生命の鼓動を、歌声を通してまざまざと感じる序曲であった。



ギターの弾き語りで「一杯の焼酎」を歌い出すと、真壁陽平(Guitar)、大坂孝之介(Keyboards)、根岸孝旨(Bass)、平里修一(Drums)らが入場。彼らの演奏と観客の手拍子の温かな響きが加わったこの曲から、いよいよライヴが始まった。中村のエレキギターとバンドメンバーの音が力強いアンサンブルを形成した「駆け足の生き様」の後、中村が挨拶。「人の気配を感じられることをありがたく思います。皆様のおかげで過ごせた15年です。この15年で出会った全てを愛せるようなライヴにすることを宣言します。」という言葉が、大きな拍手と共に観客に受け止められていた。


繊細なピアノと歌から始まり、穏やかなバンドサウンドへと合流していった「ここにいるよ」は、写真を破るようなモーションでエンディングを迎え、何かの終わり、或いは決別を表しているようだった。続いて「閃光花火」、「幾歳月」が披露されたが、歌う中村の視線の先に各曲の物語が生々しく広がっている気配が伝わってくる。身体の角度、腕の動き、髪の揺らぎも含めて曲の中で生きているように感じられた。歌声はもちろん、佇まいからも歌に込められた念のようなものが迫ってくるのは、ライヴならではの醍醐味だ。時折のMCでの中村とバンドメンバーとのコミュニケーションも、心地よい空間を生み出していた。各々のタイミングで出会った4人と交わし合う言葉に、音楽を介して培った信頼を感じとれる。「たくさんの出会いと、いくつかの別れと、その全てに感謝を込めて」とMCは結ばれ、2007年からの付き合いである大坂孝之介のピアノと共に届けられた「チューインガム」は、心温まるひと時。歌いながら、観客やバンドメンバーへも投げかけられた視線は、共に歩んで来たことへの喜びを物語っていた。



ステージ上の電球が灯り、神秘的な雰囲気の中「命日」、「会いたいひと」が披露された後、15年間の活動に対しての想いが語られた。それは「ボタンを掛け違えてしまったのではないか?」という、中村の心の中で長らく燻っていた感覚についてであった。十代の頃、人との関わり方に悩み、その悩みから解放されるために作り始めた音楽。しかし2006年にデビューする際、自分を解放する為の音楽に必要のないノイズが入り込んだ感覚があったのだという。セクシュアリティーの公表を求められた時に抱いた違和感。自分を解放するための音楽に、余計な色を加えられてしまうことへの疑問。説得された末に公表を選んでしまった自分の愚かさ……当時の出来事に触れながら語った「それくらいのことで怯えるような弱い人間だと思われたくなかった。強い人間であることを見せないと、夢が目の前で消えてしまうのではないか?という焦りがあったからです」という言葉が忘れられない。「ずっと好きになれなかった歌があります。本当は、いろいろな柵(しがらみ)から解放されたくて作った歌です。その感覚を、今なら取り戻せるんじゃないかと思います」という言葉を添えて歌い始めた「友達の詩」。傷ついた過去も後悔も自分の選んだ人生として受け入れながら歌う、魂の歌だった。


やるせなさを抱えながら生きている全ての者を包み込むかのようだった「愚痴」が披露された直後、ステージへと届けられた拍手は暫くの間止むことがなかった。震える心を打ち鳴らす拍手に託すしかない感覚が、観客たちの中にあったのだと思う。「私はずっと触れ合いを求めていました。同じ時、同じ空間で音楽を通じて触れ合う。こういう触れ合い方があることを、たくさんの人が私に教えてくれました。私は歌うことを選び、ステージに立つことを選び、いろいろな選択をして、この触れ合いを手に入れたのだと思います」という中村の言葉が、観客の心と呼応しているように感じた。そして「世界のみかた」を皮切りに、濃密な時間に拍車がかかる。このツアーの為に紡がれたリリックでラップも披露され、観客と共に手拍子でコール&レスポンスをした「裏通りの恋人たち」。骨太なバンドサウンドと歌が熱を放った「旅人だもの」。未来へと進む意志に満ちていた「孤独を歩こう」……ひたすら心奪われる他ない場面の連続であった。



「これからも一緒に歳をとって参りましょう」。この言葉を噛み締めなら耳を傾けた本編ラストの曲「死ぬなよ、友よ」は、深く心に沁みた。中村 中の音楽を聴きながら歩んできた日々が思い出されると同時に、これからも共に生きていける未来があることを信じられる自分が嬉しかった。



エレキギターを弾きながら、歌える喜び、バンドと音を交わし合う喜び、観客と触れ合える喜び、様々な喜びに溢れていた「うれしい」。観客たちが大喜びしながら一緒に踊っていた「未練通り」。「本当はみんな、叫びたいのに」の一節が、声援をあげられなかった観客の気持ちを代弁するかのような「愛されたい」。アンコールで披露された曲の数々は、清々しい昂揚感を会場全体に漂わせていた。そして届けられた最後MC。「なぜ暴力で、権力で人を従わせようとする人がいるのだろうか?言葉を尽くしたのか?人の命を、人の自由を奪わない方法はなかったのか?世界で起きていることを考えると自分がちっぽけでならない。それでも、私にできることは、言葉を尽くすこと。こうして耳を傾けている人がいてくれる以上、自分で自分のことをちっぽけだ、無力だと思わず、信じてくれる人たちのために言葉を尽くさなければと思うんです」。この言葉を受け止めながら聴いた「あいつはいつかのあなたかもしれない」は、向き合わずにいられない想い、言葉の数々が真っ直ぐに迫ってきた。


こうして終演を迎えた『15TH ANNIVERSARY TOUR-新世界-』の初日。歌を歌い、音を奏でることに対する切実な想いが終始溢れ返っていたのが思い出される。“生きる”ということが、ステージに立つ姿そのものとなっていた――このように書いても決して誇張にはならないだろう。そういう表現を届けてくれるから中村 中の音楽に心惹かれるようになったのだと、自分自身のことも改めて振り返ることができた。あの空間で共に過ごした観客のひとりひとりにとっても、忘れられないライヴになったに違いない。

15TH ANNIVERSARY TOUR-新世界-
2022年4月2日(土)日本橋三井ホール

文:田中 大
写真:渞 忠之

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